民族時報 第890(99. 8. 1)


 

 解説

 

 国家保安法による拘束者の実態

 

 放置された国家保安法

 金大中大統領は七月五日、米国・フィラデルフィアで自由賞を受賞した後の記者会見で、国家保安法に関連して「この法律には毒素条項があるので、大幅に改正するか、他の法律に替えるための準備をしている」と語った。大統領就任後一年半にして、ようやく金大統領が同法に手をつけることを明言したことになる。

 同法で死刑判決を受けたことのある金大統領が、野党時代には同法の撤廃を主張してきたことはよく知られている。そのため多くの人々は、九八年二月の政権の発足にあたって、金大統領が「これを廃止できないにしても、乱用はしない」と述べた約束に大きな期待を寄せた。この大統領の発言を受けて法務部、国家情報院(国情院、当時は国家安全企画部)、最高検公安部などの公安機関の責任者は、異口同音に「同法の適用を厳格にし、人権侵害の余地をなくす」と何回も強調した。

 だが、このような言葉とは裏腹に、手付かずの同法はこの一年間、ほしいままに乱用されてきた。

国家保安法乱用の実態

 金政権発足から一年間の国家保安法違反による拘束者は、民主化実践家族運動協議会(民家協)の調査によって、四百十三人にものぼることが明らかになった。同法による拘束者を月別に見ると、九八年五月から急激に拘束者数が増えている。これは整理解雇によってIMF信託統治が本格化するに伴い、労働者の闘争と国民の不満の高まりを抑えるために、連続して国家保安法違反の組織事件が発表されたからだ。国際社会主義事件(五・七、十七人拘束)、北部労働者会事件(五・一三、七人拘束)、釜山仁済大自主隊伍(ご)事件(五・二九、十一人拘束)、安養民主化運動青年連合事件(六・二、九人拘束)、全国学生連帯事件(六・九、七人拘束)、進歩民衆青年連合事件(六・二四、六人拘束)、嶺南委員会事件(七・二五、十五人拘束)、蔚山大革新隊伍事件(七・二五、五人拘束)などが、これにあたる。

 また、九八年五月に発足した第六期韓国大学総学生会連合(韓総連)に対して、最高検公安部が国家保安法上の利敵団体に規定し、韓総連代議員の学生らを大量拘束したためでもある。とくに七月だけでも韓総連の代議員だという理由で三十七人の学生が拘束され、八月には三十三人が拘束された。

 このような政権発足一年間の国家保安法乱用の実態は、全斗煥政権が八〇年に拘束した百五十九人に比べて二・六倍、盧泰愚政権が八八年に拘束した百四人の三・九五倍、金泳三政権が九三年に拘束した百三十六人のおよそ三倍だ。

 存続のための「改正・代替立法」

 今回の訪米時の大統領発言によって、秋の定期国会で同法の改廃問題が論議されることがほぼ確実になった。政府は「改正・代替立法」にするのに先立ち、正確な国民世論を把握するため専門機関に世論調査を依頼しているという。

 だが問題は、なぜ「人権大統領」のもとで、最悪の人権侵害法が一年半以上も手付かずのままに放置され、乱用されてきたのか、にある。

 一部の人々は、金大統領には「改正・代替立法」の意欲はあるが、連立相手の自民連が同法の存続を主張しているからだと大統領を弁護する。しかしそれなら、金大統領は、人権問題を政略の取り引き材料にしていることになる。これは「人権大統領」を自称する資格を自ら放棄しているに等しい。

 また、そもそも存在してはならない悪法を、完全撤廃ではなく「改正・代替立法」するというのは、実のところそれを存続させたいという意思の反映といわざるをえない。国家保安法が実際には「政権保安法」で、金大統領もこの一年間その恩恵に浴してきたことは否定できない。代替立法にしようとしている「民主秩序保護法」も、国内の人権団体が指摘するように「政権秩序保護法」として、政権維持のための人権侵害法として機能する可能性が高い。

 韓国の民主・人権団体は、秋の定期国会に照準を合わせて保安法撤廃闘争に本格的に突入している。生まれてはならなかったにもかかわらず、五十年以上も猛威を振るってきた悪法の息の根を止めるか、生まれ変わらせてしまうのか、正念場にさしかかっている。

 (高雄埴記者)

 


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