民族時報 第1103号(06.12.01)


【焦点】各界から批判の声/「大本営発表」の復活

    政府が「拉致報道」命令

 菅義偉総務相は十一月十日、NHKの橋本元一会長を総務省に呼び、短波ラジオ国際放送の報道や解説で北朝鮮による拉致問題を重点的に取り上げるよう命令した。

 命令放送とは、放送法が国際放送について定めている制度。総務相が事項を指定して放送を命じることができる。実際に対象になっているのは、同制度に基づき制作費の一部に国費が投じられているNHKの短波ラジオ国際放送だけとなっている。これまでの命令は、NHKの自主性を尊重するため、「時事」「国の重要な政策」「国際問題に関する政府の見解」といった大枠にとどめ、具体的な放送内容に口出ししてこなかった。これに「北朝鮮による日本人拉致問題にとくに留意すること」が具体的に追加された。具体的な項目をあげた命令は今回が初めて。

 菅総務相は「報道の自由が大事。放送内容まで踏み込むことはない」と述べているが、その一方で「短波放送とテレビ国際放送を同様に扱うのが自然だ」として、NHKテレビ国際放送にも命令を適用する考えを明らかにした。

 だが、放送法第一条二項には「放送の真実および自律を保障することによって放送による表現の自由を確保すること」と規定されている。同三条には「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ何人からも干渉され、または規律されることがない」と規定、編集の自由をうたっている。

 関連放送としては、拉致問題を調べている民間団体「特定失踪(しっそう)者問題調査会」が北朝鮮向けに短波ラジオ放送「しおかぜ」を流している。菅総務相は「『しおかぜ』が短波放送をほしいということであれば、ITU(国際電気通信連合)に正式に申し入れたい。NHKの施設を使えるよう前向きに考えたい」と支援を表明。国際放送のための新たな周波数の割り当てに向けて国際機関に働きかけるほか、NHKの送信所を活用するなどの支援策に乗り出す考えも示した。何をか言わんやである。

 これに対して、メディア関係者や有識者から放送や編集の自由への国家の介入だとして強く反発している。

 服部孝章・立教大学教授(放送制度論)は「政府による放送内容への関与は、放送の不偏不党、表現の自由をうたった放送法一条の理念に反する。放送法は、国際放送の命令を規定しているが、番組の具体的な中身にまで踏み込むことは記していない」と指摘し、放送の国策化を狙う日本政府のメディア戦略を厳しく批判した。

 拉致問題を悪用して、日本政府が過去の「大本営発表」を復活させようとする第一歩だと言える。


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