民族時報 第1028号(04.02.11)


【読書案内】難問を解決する糸口に

    秤にかけてはならないー日朝問題を考える座標軸

      徐京植(影書房、1800円+税)

 朝日首脳会談とピョンヤン宣言、日本人拉(ら)致の是認と謝罪、「拉致報道」によって製造された北朝鮮に対する「国民的敵意」。それを背景にした「建国義勇軍」の連続テロ攻撃。さらに一点の大義なきイラク侵略戦争と、北朝鮮の「核抑止力保有宣言」。日本の有事法制定と自衛隊の戦場への派兵、社民党までが賛成(棄権)した北朝鮮制裁法の成立。

 隣人として、長い長い歴史を共有してきた朝日両民族にとって、とりわけ悲惨で不幸だった帝国・植民地主義時代と分断時代の百年のはてに、ある意味、絶望的な難問がつきつけられている。

 はたして、両民族は互いにとって不幸だった過去を清算し、対立を解消して和解を進め、対等な人間同士として共存していくことができるのだろうか、と。

 この難問は私たち在日朝鮮人に、とくに重くのしかかっている。私たちは植民地主義の被害者でありながら、一方で旧宗主国の「繁栄」のおこぼれを身に取りこみ、しかし差別と闘って尊厳を守り生きてきた。だから〈被害者が加害者でもあった〉ことに、名状しがたい打撃を受けたからである。

 「秤(はかり)にかけてはならない」とは、「戦争前夜」にあって、私たちの難問を、理性的で人間的に解決してゆく、ひとつの大切なパスワードである。

 植民地支配も拉致も、ともに人の命を奪い、人生を丸ごとゆがめた。人の命と人生の重さを秤にかけられないのは言うまでもない。しかし、「秤にかけてはならない」とは、もう一歩進んで、私たちがきぜんとして「制度やイデオロギーとしての植民地支配という問題と、この拉致という悲劇的な犯罪を秤にかけてはならない」ということなのである。

 本書は朝日関係の歴史と現状を、情理をつくして解説して、難問解決の糸口をつかんでくれるように、読者に語りかけている。たとえばピョンヤン宣言を、歴史的現実を踏まえて読み解くこと。また、「朝鮮とパレスチナ」が難民問題でつながり、植民地主義克服との現代的な難問で結び合わせられること。

 朝日の関係正常化問題は、ますます難問化している。だが、はっきりしているのは、この難問は朝鮮半島の分断状態が不変であるとの設定によっては、絶対に解けないということだ。分断は植民地主義の結果である。その分断がいま急速に克服されている。これは、やはり植民地主義克服の問題である朝鮮民族全体と日本の関係正常化に、大きな影響を与えずにおかない。

 本書はこうした大きな視点も提供してくれるのである。 (英)


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