民族時報 第1028号(04.02.11)


【寄稿】軍事力行使の準備過程狙う

    なぜいま「対北経済制裁法」制定か

                               北川広和(「日韓分析」編集人)

 年末から年始にかけて、拉致(ら)問題解決に向けた動きがあった。

 昨年十二月二十、二十一日、北京で朝鮮側が「拉致被害者五人がピョンヤン空港まで出迎えに来れば全員帰す」と日本側に提案した。協議には、朝鮮側から日朝交渉の鄭泰和大使が出席する力の入れようで、日本側の平沢勝栄・拉致議連事務局長は帰国後、激論になったが最後は握手をして別れた、と語り、朝鮮側提案を持ち帰ったことを明らかにした。

 提案に対しては、拉致被害者本人や家族から、好意的な反応が相次いだ。曽我さんは「会えるきっかけになれば」とコメントし、地村夫妻は「子どもが確実に帰るのなら、ピョンヤンまで迎えに行ってもいい」と語ったと伝えられた。また、家族連絡会の蓮池透事務局長も「行ったらすぐ飛行機に乗せる一〇〇%の確約があれば検討の余地がある」と期待を寄せた。

 しかし一月中旬になって、家族らの期待はつぶれてしまった。つぶしたのはだれなのか。家族連絡会は一月十七日に総会を開き、「提案は北朝鮮の揺さぶりにすぎず、論評に値しない」との結論を出した。が、これに先立ち一月九日と十五日、家族連絡会は「救う会」との会合をもち、「北朝鮮の提案は検討に値しない」との「検討結果」をすでに発表している。

 会合では、「救う会」の佐藤勝巳会長と北京の協議に同行した西岡力副会長が「目新しい提案はなかった。平沢議員は北朝鮮の揺さぶりに乗せられている。帰すというムードをつくり、経済制裁法案の審議を遅らせるのが北朝鮮の目的だ」などと述べ、被害者とその家族を説き伏せた。被害者たちの切実な思いは「救う会」によって踏みにじられた。

 なぜ「救う会」は家族の再会・帰国を妨害したのか。佐藤会長みずから語っているように、朝鮮に対する制裁法案の制定を図っている時期なので、朝鮮側提案を検討すべきではない、ということである。「救う会」は制裁法案の成立を最優先するため、拉致被害者家族の再会・帰国を遠のかせた。「救う会」は、拉致問題を政治利用している。

 家族連絡会の総会から二日後の一月十九日には通常国会が始まり、二十八日の衆院財務金融委員会では約一時間の審議で、翌二十九日の衆院本会議では質疑も何もないまま、外国為替・外国貿易法改定案が自民、民主、公明、社民の圧倒的多数で可決した。

 朝鮮へのカネとモノの流れを規制する外為法改定案は、大きな問題性と危険性をはらんでいる。

 過去に犯した罪を互いに認め国交正常化へ向けた話し合いを進めようとの日朝ピョンヤン宣言に違反し、互いに状況を悪化させる言動をとらないとした第一回六者協議での共通認識にも反する行為である。日朝二国間の、あるいは国際的な信義を損なう法制定である。

 また制裁法という圧力は、相手に脅威を及ぼすものであり実力行使の一環にほかならないが、圧力のエスカレートは軍事力の行使へと発展しかねない。現に、外為法改定案の次には、朝鮮の船舶にねらいを定めた入港禁止法案や、カネとモノに続いてヒトの自由往来まで規制しようという再入国規制法案まで準備されている。それは、戦争の第一段階としての経済封鎖、海上封鎖そのものである。

 もっとも深刻な問題は、拉致問題に直接かかわりのない在日朝鮮人の権利・自由をはく奪することになる事実である。制裁の直接的適用対象は在日朝鮮人になる。祖国・朝鮮に住む家族・親族への仕送り(生活に欠かすことのできない日用品や医療品なども含めて)ができなくなる。制定されただけでも、すべての在日朝鮮人に心理的圧迫を加えることになる。

 日本国内では、昨年末から非常にきな臭い動きがいくつも表面化している。自衛隊のイラク派兵、ミサイル防衛システムの導入、「朝鮮征伐隊」などを名乗る右翼テログループの犯行、小泉首相の元旦靖国参拝、石原都知事の朝鮮総連関連施設や朝鮮学校に対する不当な課税攻撃など枚挙にいとまがない。

 その一つひとつには、制裁法案の制定も含めて共通項がある。朝鮮に対する差別・排外意識に根ざした行為であることであり、同時に、朝鮮に対する軍事力行使の準備過程になっていることである。日本はいま、朝鮮侵略戦争という地獄への坂道を転げ落ち始めている。私たちは、何としても戦争を食い止めなければならない。


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