民族時報 第940号(01.03.21)


【寄稿】

 歴史教科書わい曲の背景と狙いは何か

俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)

「つくる会」教科書の記述

 「新しい歴史教科書をつくる会」(「つくる会」)が作成し、扶桑社が文部科学省に検定申請している歴史教科書は、侵略戦争を肯定・美化し、植民地支配を正当化する憲法違反の内容である。

「つくる会」教科書は、朝鮮半島と日本の関係について、次のように書いている。欧米列強の進出という情勢に、日本は「独立を維持して、大国の仲間入りを果た」したのに対して、「朝鮮は危機意識がうすく」眠り続けた。だから、日本が中国・朝鮮を欧米列強から守ってやったと印象づけている。中国・韓国への蔑視(べっし)は全体に貫かれている。これが、この教科書の基本的なアジア観である。

朝鮮半島を大陸から突き出た一本の腕と表現し、「朝鮮半島は日本に絶えず突きつけられている凶器」と断定し、「朝鮮半島が日本に敵対的な大国の支配下に入れば」「自国の防衛が困難となる」と書いている。この自分勝手な地勢論を根拠に、「一九一〇(明治四三)年、日本は韓国を併合した(韓国併合)。これは、東アジアを安定させる政策として欧米列強から支持されたものであった。韓国併合は、日本の安全と満州の権益を防衛するには必要であった…略…、当時としては、国際関係の原則にのっとり、合法的におこなわれた」と述べ、韓国併合・植民地化は、日本の安全のために必要だった、合法的だったと正当化している。

植民地支配を正当化するだけでなく、創氏改名、日本語の強制、土地収奪、強制連行、徴兵制の施行、皇民化政策など植民地支配の実態についてはまったく記述していない。さらに、韓国国内の抵抗については、「しかし韓国の国内には、当然、併合に対する賛否両論があり、反対派の一部からはげしい抵抗もおこった」という記述があるだけで、義兵闘争など植民地化への抵抗闘争については書いていない。

 文部科学省の検定によって、韓国併合の部分は、「韓国内の反対を武力を背景に抑え断行。日本語教育など同化政策が進められ、朝鮮の人々は日本への反感を強めた」と一部修正をしている。しかし、この教科書の執筆者でもある西尾幹二「つくる会」会長が「我々の考え方そのものは残っている」と語っているように、アジア観や植民地支配を正当化する基本的な内容は変わっていない。

 「戦争のできる国」をめざす

 日本の歴史教科書は、家永教科書裁判運動を中心とした国民世論と八二年の国際批判などによって、八○年代後半から大幅に改善されてきた。ところが、こうした歴史教科書の改善に対して、一九九六年夏から、教科書「偏向」攻撃がはじまった。「従軍慰安婦」や南京大虐殺をはじめとした加害の記述を「反日的・自虐的」と誹謗し、「教科書から削除せよ」という右派による攻撃が激しく行われてきた。その中心人物の西尾幹二、藤岡信勝氏らは、現行教科書を「自虐史観」と攻撃するだけでなく、自分たちで中学校歴史教科書の発行をめざして、九七年一月に「つくる会」を結成した。

「つくる会」は一万人を超える会員で、全都道府県に支部を設立し、年間四億二千万円を超える収入で活動している。自分たちの教科書を検定に合格させ、二○○一年七月に行われる採択(使用する教科書の選定)で一〇%(約十五万冊)以上採用されることをめざして、各地で支部を推進力にした「国民運動」を展開している。『国民の歴史』をばらまき、講演会を開催し、自分たちに有利な採択制度に改悪するよう、地方議会や教育委員会に対して請願・陳情を行っている。「つくる会」の運動に対して、国・地方の自民党議員が教科書議連を結成して全面的にバックアップし、また、改憲組織・日本会議をはじめ右派勢力が総結集してネオ・ファシズムの「統一戦線」で世論づくりを推し進めている。

 「つくる会」など歴史改ざん派は、戦争法(新ガイドライン関連法)による「戦争ができる国」「戦争をする国」づくりのためのイデオロギー面を担い、「日の丸・君が代」の押し付けとともに、ネオ・ナショナリズムによる国民意識の統合をめざしている。自衛隊の海外派兵体制をつくりたい財界は、この「つくる会」の運動を物心両面から支援している。

 「つくる会」教科書は三月末に検定に合格した。このような「あぶない教科書」を一冊たりとも学校現場に持ち込ませないために、「つくる会」の教科書と運動を批判する世論を大きくしていくことが求められている。私たちの子どもと教科書全国ネット21は、この教科書を採択させないための国民世論を全国的なネットワークで大きく広げる活動の先頭に立って活動している。韓国・中国など海外からの批判だけでなく、国内での批判の声も日増しに高まっている。


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