民族時報 第936号(01.02.11)


【資料】

 ブッシュ政権と韓半島

 月刊誌「マル」(二月号)は「ブッシュ政権と韓半島」をテーマに特集記事を掲載した。そのうち、「連合ニュース」北韓部のチョン・イリョン次長の寄稿「北韓の対米戦略」を全文紹介する。

 新千年が始まって世紀が変わる瞬間にも、韓半島の上空には依然として冷たい気流が立ちこめている。二十世紀最後の年に朝鮮民主主義人民共和国(以下、朝鮮)と米合衆国との間に史上初の高位級会談が開かれ、五十年を超える感情をといて和解するかとみられたが、ジョージ・W・ブッシュ共和党政権が登場すると、再び敵対関係に戻るのではないかとの憂慮を呼び起こしている。

盗人たけだけしいブッシュ政権

 憂慮の種は朝鮮ではなく、米国側がまいている。ブッシュ政権は、前任政権の時代に米国の対朝鮮政策にどれほど多くの不満を持っていたか、公式出発する前から朝鮮に対する悪感情を激しく出し始めた。ディック・チェイニー副大統領、ドナルド・ラムズフェルド国防長官、コンドリーザ・ライス・ホワイトハウス国家安保担当補佐官らブッシュの参謀陣のなかで、朝鮮を肯定的に認識する人はほとんどいない。ほとんどが、こらしめなければならない「ならず者国家」と見ている。

 最近、米国側から流れてくる対朝鮮発言は、まるでこれまでに受けた侮辱に仕返しをしてやるから覚悟しろ、といった具合だ。大国らしい風ぼうや度量はなく、国家間の礼儀、外交上の儀礼のようなものは眼中になく、傍若無人に振る舞っている。

 ブッシュ政権のこのような行動は、朝鮮としてはあきれるものだ。朝鮮は朝米間の合意事項を徹底して履行してきた反面、米国は自国側に都合のいいように履行したいときはして、嫌なら背いてきたからだ。

 盗人たけだけしいもほどがあると、朝鮮としてはむしろ怒っている米国が哀れに思うはずだ。朝鮮は新たに登場したブッシュ政権に対し、沈黙で一貫している。ブッシュ大統領が当選した事実さえ言及していない。ただ昨年、共和党を批判したことが何回かあっただけだ。とくに昨年七月、共和党が「力の優位」を土台にした外交政策を鮮明にした綱領を発表したとき、批判が集中した。

 現在の朝米間の懸案は具体的に二つに要約される。ミサイル問題とジュネーブ基本合意文の履行問題だ。米国は朝鮮のミサイル開発にかこつけ、一千億ドル近く必要な米本土ミサイル防衛(NMD)体制を樹立しようとしている。これとともに戦域ミサイル防衛(TMD)体制も開発しようとしている。ミサイル問題が解決されず、史上初の米国大統領の訪北が土壇場で結局成功しなかった。ジュネーブ基本合意文の履行もまた深刻だ。二〇〇三年までに二百万キロワットの発電能力の軽水炉発電所を作ることにしたが、現実的には不可能という判断が出てすでに久しい。合意文の不履行は、明らかに米国側に責任があることをみせる事例だ。現在のような状態であれば、朝鮮側は機会あるたびに約束を守れと米国に迫るだろうし、米国としても負担を感じざるをえないだろう。

米国との約束は対米協商のテコ

 朝鮮はめったに間違ったことを言わない。実際の行動はともかく、少なくとも論理的に前後のあわない発言をしない。どうすればそうなるか、と驚くほど用意周到に感じるのは、一度や二度ではない。クリントン大統領の訪北の件も一つの例だ。昨年十月十二日の朝米共同コミュニケには、「米国大統領の訪問」も記されていた。クリントン大統領と限定しなかった。現職大統領の訪北が実現しない可能性を念頭においた結果だと解釈するのは、過ぎた憶測だろうか。しかし、いったん共同コミュニケに米合衆国大統領の訪問を明記した以上、朝鮮としては合意事項の履行を要求でき、米国としてはまったく度外視できなくなるだろう。万一この合意事項が履行されないとしても、米国側はもう一つの負担を負うことになることだけは間違いない。朝鮮側の巧みな外交術を感じさせる事例だ。

 米国が過去に朝鮮と交わした約束は、朝鮮側としては何よりも重要な対米のテコだ。米国だけが圧迫手段を持っているのではなく、朝鮮にもテコがあるという事実は、耳慣れないかも知れないが、事実は事実だ。朝鮮は合意事項を根拠に、米国に絶え間なく約束履行を要求するだろうし、米国は朝鮮の当然の要求を受け入れるか、でなければ黙殺するか、二つに一つを選択しなければならない。万一、米国が黙殺を選べば、それでなくても世界各国から「手前勝手な超強大国」という批判に直面している米国に、もう一つの否定的な事例を加えるだろう。

 朝米合意はすべて記憶するのがむずかしいほど、何度も行われた。このなかで、朝米関係に画期的で重要な合意は、九三年六月十一日の朝米共同声明、九四年十月二十一日の朝米基本合意文(ジュネーブ基本合意文)、二〇〇〇年十月十二日の朝米共同コミュニケの三つだ。これらの合意事項どおりならば、すでに朝鮮と米国は国交を正常化し、和解と協力の関係になっていなければならない。しかし、朝鮮は合意事項を守っているのに反し、米国が誠意のない出方をするので、いまだに韓半島には冷たい風が吹いている。

核危機の劇的な反転の秘密

 九三年三月、朝鮮は核兵器拡散禁止条約(NPT)脱退を宣言した。九〇年代に入ってから本格的に提起されたいわゆる「韓半島の核危機」は、NPT脱退宣言で絶頂に達した。朝米間には、一戦交えることを覚悟する険悪な言葉が行き交うなど、韓半島情勢は急速に冷却した。しかし、核危機は劇的な反転を迎えることになる。正確にNPT脱退宣言三か月目の九三年六月十一日、ニューヨークで朝米共同宣言が発表された。

 二国間で初めて採択されたこの共同声明は、@核兵器を含む武力を使用せず、このような武力で脅威を与えないことを保証するA全面的な保証適用の公正性の保障を含め、朝鮮半島(韓半島)の非核化、平和と安定を保障し、双方の自主権を相互尊重して内政に干渉しないB朝鮮の平和的統一を支持する、と明らかにした。この共同声明は、韓半島の核問題の根本的解決に焦点が合わされたものだ。朝鮮は、いわゆる核問題が米国の対朝鮮敵視政策で発端になり、二国間の敵対関係を根源的に解消しなくては、敵視政策はなくならないという観点を持っていた。したがって核問題解決のためには、何よりも朝米間に敵対関係を解消し、互いに双方の制度と自主権を認定し、内政に干渉しない、などの根本的な政策調整が優先されなければならないと主張、これを貫徹させたのだ。

 頂点に達していた核危機が、三か月ぶりに対決から協商へと劇的に局面転換した過程は、国内ではほとんど知られていない。これと関連して興味深い解説がある。在日同胞で「朝鮮の代弁人」と呼ばれている金明哲氏は、「米国が朝鮮の力を知ったために協商に入った」と解説する。この解説には相当の一理がある。

 一段階の会談が開かれる直前の九三年五月末、朝鮮はノドンミサイルの試験発射を断行した。ここまではよく知られている事実だ。朝鮮は事前に米国にミサイルの試験発射を通知し、実際に試験発射したミサイルの数も一発ではなく三発だったと金氏は主張する。一発はすでに知られているとおり、東海上の日本の能登半島前に、あとの二発目はハワイ、グアム付近にそれぞれ着弾したというのだ。米国に事前通知し、それも三発発射したということは、まったく知られていない事実だ。

 元来米国は、弱者は徹底して押しつぶすという帝国主義の属性を持っている。万一、朝鮮がとるに足らない存在にすぎなかったら、イラクやユーゴを侵攻したように、朝鮮に対しても無慈悲な制裁を加えただろう。しかし米国は朝鮮と協商を行った。朝鮮が駐韓米軍はもちろん、駐日米軍、さらにはハワイの基地まで打撃できるミサイル能力を保有していることを、その目で確認したために、協商に旋回したのだと推定することができる。いずれにしても、朝米間には武力脅威を与えることなく相互の自主権を尊重し、韓半島の平和統一を支持するという史上初めての共同声明が採択された。核危機で生じた災いを関係正常化という福に変化させたのは、朝鮮が保有する軍事力と巧みな外交術が合わさってもたらされた合作物というわけである。

 共同声明の採択後、朝米双方は九三年七月十四日から十九日まで、ジュネーブで二段階の高位級会談を行い、共同声明を履行するための実践的対策を提示する共同報道文を発表したが、米国はその後も共同声明と共同報道文を通して鮮明になった原則を無視し、朝鮮に対する核脅威と敵視政策、圧殺政策を放棄しなかった。朝鮮外交部は九四年一月三十一日に発表した声明で、「米国が朝米会談を行わないならば、われわれもあえて会談を開く考えはない」と明らかにした。極東の端にくっついている貧国の朝鮮が、唯一超強大国の米国の体面をまったくこき下ろし、米国は再び協商に応じて、結局、ジュネーブ基本合意文にハンコを押した。ジュネーブ基本合意文は広く知られているので、改めて説明しなくてもよいだろう。骨子は、朝鮮の過去の核活動をいったん不問にする代わりに未来の核活動を凍結すること、見返りに米国は朝鮮に二百万キロワットの軽水炉建設と、軽水炉の第一機が建設されるまで毎年重油五十万トンを提供すること、政治・経済の面で正常な関係を樹立することなどに要約される。

 朝鮮の外交術はここでもいかんなく発揮された。朝鮮は、一度欺かれれば二度と欺かれないというように、今回は米合衆国大統領の「合意文履行の保証書簡」まで受け取った。ジュネーブ基本合意文妥結の一日前、米合衆国大統領ビル・クリントンは、軽水炉提供と代用エネルギー保障と関連して「朝鮮民主主義人民共和国・最高指導者 金正日閣下」あてに覚書を送ってきた。その覚書には「わたしは、この原子炉が朝鮮民主主義人民共和国の責任ではない理由により完成しなかった場合、わたしのすべての職権を行使し、米合衆国国会の承認のもと、米合衆国が直接引き受けて完成させます」と誓った。

 米国は代用エネルギー、すなわち毎年重油五十万トンをきちんと提供している。しかし軽水炉発電所には、それほど誠意を見せていない。軽水炉の完成は、早くても二〇〇七年になるだろうとの予測だ。さらに政治、経済関係の正常化、九三年六月に共同声明で約束していた武力脅威の中断などに対しては、まるで善意を施すかのような高姿勢をとっている。朝鮮が「米国は信義がない」と非難するのは、このような理由がある。

 昨年、両国は高官を交換し、共同声明や基本合意文より一段階高い共同コミュニケを採択するところまで至った。ここでも両国の関係改善、敵対関係の清算など、もう一度歴史的な合意を見たが、コミュニケ署名のインクが乾く前に、米国では今までの合意事項は眼中にもないといった、くせの悪い言辞がわき起こっている。

結局、協商に出るブッシュ政権

 米国は元来、ジュネーブ基本合意文を誠実に守るという意志がなかったとみえる。金日成主席の死後に、朝鮮式社会主義体制はすぐにも崩壊するだろうと見ていたのが、決定的な判断の誤りだった。守らなくてもよい約束なのに、軽水炉支援以上のどんな約束もやっておれるか、との考えも入っていたようだ。しかし朝鮮はいまだに健在で、米国は自分がした約束を守れずきゅうきゅうとしている。そうしながら、クリントン政権が米国をして侮蔑されたと糾弾している。一時沈黙していた朝鮮は、「ならず者国家」という宣伝スローガンを再び持ち出して、いわゆる厳格な相互主義を打ち出し、今度は目にもの見せてやると声を高めている。しかし米国の態度は、「漢江でほおをぶたれ、東大門で腹いせをする」という笑い話を連想させるだけで、別に説得力がない。

 朝鮮は今年の新年の共同社説で、自主政治をふたたび強調した。共同社説は「自主の旗を固く守るわが国は、世界政治の焦点となってきた」とし、「五千年の民族史において、今日ほどわが国の国際的地位が最高の境地にいたったときはなかった」と、政治強国の気性を見せた。続いて「われわれと善隣友好関係を結び発展させることは、押しとどめることのできない時代的すう勢となっている」と、昨年は欧州連合会員国など西側との一連の修交を想起させながら、欠点のない論理で米国の敵対政策放棄を再び促した。

 米国は、共和党政権であろうと民主党政権であろうと、外交の最優先を国益保護と伸長に置いてきた。これは米国だけでなく、どの国の外交も同様だ。九一年、元大統領のジョージ・HW・ブッシュは、韓半島から地上核兵器を撤収させながら駐韓米軍の撤収も真剣に考えた。共和党政権もやはり、米国の国益を最優先視するという点で民主党政権と変わりはない。朝鮮はまさに、この点で米国と一致点を見いだすことができる。朝鮮の核開発が、米国の国益にそぐわないという判断に従ってクリントン政権が協商に応じたように、ブッシュ政権もやはり国益上の側面から朝鮮と円満な解決策を模索するほかないだろう。                                     


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