民族時報 第896号(99.10.11)


 

 寄稿

 

 「周辺事態法」成立をめぐる舞台裏(下)

 

 杉野陽(評論家)

 

 現代の戦争で「前線」と「後方」に「一線を画す」などできないことは常識だが、それはまた、現代の戦争が軍隊だけでなく政治・経済・社会のすべての機能と能力を投入する「総力戦」となることでもある。

周辺事態法と「協力要請」

 周辺事態法では、自衛隊その他の関係政府機関が戦争協力に動くだけでなく、「国以外の者」にも戦争協力を要請する条項がある。

 その第九条には、「関係行政機関の長は、法令及び基本計画に従い、地方公共団体の長に対し権限行使について必要な協力を求めることができる」、「国以外の者(自治体や民間)に対し、必要な協力を依頼することができる」とある。

 九九年七月に内閣安全保障・危機管理室と防衛庁、外務省がまとめた文書「周辺事態安全確保法第九条の解説」では、その自治体の長は「権限を適切に行使することが法的に期待される立場に置かれる。これを一般的な協力義務と呼んでいる」。他方、権限行使以外の事項について協力を依頼された者は、「自らの判断で契約の締結などを行えばよく、何ら協力義務を負うものではない」とある。

 日本政府は、国会審議の中で「協力は強制しない」と繰り返したが、首長が協力を拒否した場合は、「正当な理由を示してもらう」とか「正当な理由がなければ違法状態になる」などと言う。政府は、協力を拒否する自治体には、許認可や補助金などで締め付けるという手段を持っている。

戦争協力強制の法令が

 政府はさらに、周辺事態法第九条の「法令に従い」を受けて、協力を強制する法律を別に出すという巧妙な手口を用意していた。七月八日に成立した地方分権一括法がそのひとつだ(二〇〇〇年四月一日施行)。

 これにより政府は、「国民の生命、身体または財産の保障のため緊急に必要がある場合」「公益を害していると認めるとき」などには、自治体に「指示」したり、「改善」を求めることが可能になり、自治体はそれに従う義務が明記された。

 自治体は、空港や港湾、輸送機関、病院、給水、建築、消防、廃棄物などを管理する「事務」を行っているから、政府は「緊急に必要」とか「公益」を理由に、それらを戦争協力に動員するよう「指示」「改善」することができる。

 また地方分権一括法は、四百七十五本もの法改定を一本の法律で行うというものだが、その中には建築基準法や水道法、消防法、廃棄物処理法、港湾法などの変更が組み込まれている。

 こうして、民間空港や港湾を米軍や自衛隊に使用させ、武器弾薬や燃料を運ばせ、傷病兵を治療させ、艦船に給水させ、弾薬や燃料の貯蔵所の建設制限を除き、軍の廃棄物を優先して処理させるなどが、「法令」の根拠を持つようになった。

 現在準備され、やがて持ち出されてくる「有事立法」は、新ガイドライン体制の「日本有事版」となろう。この両者があいまてば、日本はいかようにも「戦争ができる国家」になる。

戦争協力を拒否する

 政府が自治体や民間に要請する戦争協力はすべて、自治体や民間の労働者が「業務・仕事」として命じられることになる。

 日本の労働者は、戦争遂行の「業務・仕事」を担わされるということは、近隣諸国の人々を殺し、その国土や財産を破壊することに協力させられることだ。人間の生命や尊厳、平和で友好的なつながりを破壊し断ち切る「労働」に、誇りを持つことなどできない。

 しかし労働者による「戦争協力拒否」の行動は、その意味を問うのではなく、「業務命令違反」という形式で処分・処罰が下されることになる。これこそ権力の論理である。そのうえに、「日本の国益に背く『非国民』」という社会的な圧力と制裁も加えられよう。

 けれども逆に、近隣諸国の人々の生命を奪い、財産を破壊する「業務・仕事」を拒否する行動に労働者が立ち上がることは、たとえそれが少数であっても、人間的な輝きと国境を越えた連帯の叫びとなって、人々の心を揺さぶるに違いない。これこそが権力者にとって最大の恐怖である。

 小沢一郎は、「盗聴は、国防を含めた治安維持に欠かせない。背番号制も有事の安全保障や緊急時の危機管理に必要だ」と公言した(「日本国憲法改正試案」・文芸春秋九月号)。戦争を遂行するには、国内の反対を抑え込むことが大前提だということを「正直」に示したものである。

 したがって私たちは、戦争協力を拒否し、近隣諸国の人々と心の通う結びつきをつくり、どんな紛争も話し合いで平和的に解決するような努力を、いまから進めなければならない。そして戦争協力を拒否する労働者を支持し、守り、戦争をさせず、戦争をやめさせる力を全国津々浦々につくっていく必要がある。

 日本国憲法前文は、「政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し……この憲法を確定する」と明記している。日米両政府による共同のアジア戦略と戦争体制づくりとの闘いは、まさにこのことである。

 (おわり)


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