民族時報 第1099号(06.10.01)


【解説】タカ派路線の実現をねらう陣容/韓国「言葉よりも行動が重要」

    安倍晋三新政権をどう見るべきか

 「ピョンヤン宣言」で軌道に乗るかと期待された朝日国交正常化交渉を、「拉致問題」の突出と、日本社会に根強く残る朝鮮人べっ視感情を刺激する好戦的な対北朝鮮強硬路線で座礁させて「国民的な人気」を集め、ついに自民党の総裁に選出された安倍晋三氏。

 彼は九月二十六日に衆参両院本会議の首相指名投票で第九十代首相に選出され、自民・公明両党による連立内閣を発足させた。戦後生まれ、戦後最年少の五十二歳。世襲議員、戦争の悲惨を知らず、また経験不足にもかかわらず、タカ派情緒に乗って日本の最高権力者に就任した安倍氏に対する懸念は、韓国と北朝鮮、中国などアジア諸国のみならず、米国からさえも聞こえてきている。

 保守系とされる米ワシントン・ポスト紙は二十五日、「新首相は歴史に誠実であるべき」との社説を掲載した。社説は安倍氏に対して、「現在の政策は、過去への率直な誠実さに裏打ちされていなければならない」とクギをさした。そして、小泉首相の靖国神社参拝が「中国など隣国の反日感情を無用に刺激した」と指摘したうえで、安倍氏は東京裁判の正当性に疑問を呈し、植民地支配と侵略を反省し謝罪を表明した九五年の村山首相談話を踏襲しておらず、「過去を美化することでは小泉首相を上回る」と批判した。

 発足直後の安倍政権を展望する、もっとも的確な判断材料は与党と閣僚の人事だ。安倍氏の人事をマスコミは「論功行賞と側近登用」だと指摘している。

 まず自民党役員人事で安倍氏は、党務を取り仕切り選挙を指揮する幹事長に中川秀直・政調会長、党運営と国会活動に関する重要事項を審議決定する総務会長に丹羽雄哉・元厚生相、そして、党の政策調査・立案・審議を決定する政調会長に中川昭一・農林水産相を起用した。

 中川幹事長は小泉政権を影で支えた実力者で、来年の参院選挙を見すえた起用。丹羽氏はいち早く安倍支持を打ち出した論功行賞だ。この人事の目玉は、「美しい国―日本」の愛国心教育をうたう安倍氏が最優先課題とする教育基本法「改正」の実現のための「盟友・中川昭一」の任命だといえる。

 中川政調会長のタカ派言動は際立っている。九八年七月、農水相就任直後の記者会見で「強制連行があったのか、 なかったのか分からない。中学校教科書に従軍慰安婦問題が記述されたことも疑問だ」と発言。この発言は、彼が「新しい歴史教科書をつくる会」(つくる会)発足から一か月後の九七年二月に、「つくる会」をバックアップする目的で自民党の当選五回以下の議員を中心に結成した「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」(若手議員の会)の主張に基づくものだ。この会の代表は中川氏、事務局長は安部氏だった。中川政調会長はまた、「北朝鮮はまともな国ではない。気違いだと思っている」と記者会見で放言した(〇五年八月)。この部分でも安倍氏と一心同体である。

 このような安倍・中川コンビが目指す「教育改革」がいかなるものか、すでに明らかだといえるだろう。

 閣僚人事でもタカ派路線は貫徹されている。

 まず、「創氏改名は朝鮮人が望んだ」などの妄言をためらわない麻生外相の留任は、安倍政権の外交姿勢を端的に示すものだ。また「拉致担当大臣」大臣を新設し、側近の塩崎官房長官に兼務させたことも、問題解決よりも対北圧力の強度を高めることを狙ったものといえるだろう。沖縄・北方相という米軍基地・領土問題を担当する部署に「若手議員の会」の高市早苗氏を起用したことも憂慮される。

 安倍氏は小泉前首相の手法をまね、「大統領型の首相」を目指し、首相官邸を米ホワイトハウスに擬して五人の補佐官を任命した。ここにも拉致問題担当をおき、教育再生担当にはジェンダーフリー教育バッシングの急先ぽうで「若手議員の会」の山谷えり子氏をすえた。「官邸主導」でどのような外交が行われるかは、火を見るより明らかだろう。

 安倍新首相は二十六日、就任後初の記者会見で、「美しい国づくり内閣」は重要政策として教育再生―教育基本法「改正」実現、憲法「改正」推進、集団的自衛権の行使の研究促進、北朝鮮の拉致問題に「総合的な対策を推進」すると明らかにした。また、韓国、中国との首脳会談には、両国の歩み寄りを求めた。

 韓国大統領府の当局者は同日、韓日首脳会談の開催問題に関連して、「新首相就任後、日本側がどう出てくるかにかかっている」とし、「政府は言葉よりも行動を見る」と明らかにした。

 日本側の行動とは何か。先月、徐柱錫・大統領府安保政策首席は「だれが次期日本首相になろうと、靖国参拝をする首相とは首脳会談をしないという政府の基調に変わりはない」と述べている。

 安倍新首相の歴史認識、靖国参拝問題に対する「あいまい」戦術は通用しない。在日同胞、わが民族全体、アジア民衆にとって、実に前途多難な日本の新政権発足である。

(田泰淳記者)


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