民族時報 第1043号(04.08.21)


【解説】マスコミの妨害が難関作る、小泉政権の狙いに注視を

    日朝実務協議に見る国交交渉の原状

北川広和(日韓分析)

 日本と朝鮮民主主義人民共和国(以下朝鮮)の実務者協議が八月十一と十二日、中国の北京で開かれた。しかし、当初期待された日朝国交正常化交渉の再開合意はならなかった。新聞各紙はその理由について、「北朝鮮が安否不明十名の再調査結果を明らかにしなかったためだ」と非難している。だが、本当の理由はそこにはない。

 五月二十二日にピョンヤンで開かれた日朝首脳会談では「国交正常化交渉の再開で一致し、具体的には今後協議する」と合意した。二十五日、小泉首相は衆院本会議で「安否不明者の真相究明は再開された日朝国交正常化交渉のなかで行う」と明言した。ついで七月一日にはジャカルタで日朝外相会談が開かれ、「曽我さん家族を七月二十三日までにジャカルタで再会させる」「日朝首脳会談のフォローアップのため、実務者協議を今後実施していく」ことで一致した。曽我さん家族は七月九日に再会を果たし、十八日にはそろって日本に帰国・来日した。日本政府が国交交渉再開の前提条件としていた拉致被害者五人の家族の再会・帰国はすべて果たされた。

 七月二十一日、韓国・済州島で開かれた日韓首脳会談において、「日朝国交正常化は二年でなく一年以内でも結構だ」と小泉首相は交渉再開に強い意欲を示した。ところが、この小泉発言に対して、新聞各紙が強く反発した。「正常化の目標時期を語ることは、残る十人の拉致問題などの解決の妨げになる恐れがある」(毎日七・二三付)とし、八月にも予定されている日朝実務者協議では「安否不明十人の再調査結果を求めるべきだ」との主張である。さらに、八月に入ると「実務者協議は再調査の結果こそが最大の焦点だ」、あるいは「実務者協議は再調査について話し合う場である」と勝手に決めつけるまでになった。そして、実務者協議直前には、脱北者が所持していたとされる写真が公表され、新たな拉致問題も浮上させた。

 こうしてマスコミが作り上げた世論に、日本政府も逆らうことができなかった。日朝実務者協議は「ほぼすべて『拉致』協議」(日経八・一二付見出し)となった。日朝首脳会談の合意のもと、せっかく準備された実務者協議であったが、マスコミの拉致持ち出しによって、国交交渉再開の話し合いはまったくできなかった。そこには、拉致被害者家族会や救う会の意向を全面的に反映させるとともに、一般市民に根強い被害者意識と朝鮮に対する差別排外意識をあおりたてることで、「日朝国交正常化すべきではない」という世論をねつ造しているマスコミの問題性がはっきりとあらわれている。

 その一方で、日朝国交正常化に固執する小泉政権の問題性についてもみておかなければならない。もちろん日朝国交正常化の実現を図ること自体は歓迎すべきことである。しかしながら、小泉首相は政権浮揚のためや名誉欲から国交正常化を推進しようとしているのではない。日本政府・財界の意向に沿った国益(日本帝国主義の利益)の実現をめざしているのである。日朝国交正常化を経済協力という形で実現することで唯一残された戦後処理を完成されることができれば、新たな戦前に大手を振って突き進むことができる、との考えである。日朝国交正常化は、憲法九条の改悪による戦争国家化とともに、国連常任理事国入りするなど日本がアメリカから一定程度自立した帝国主義国家となるために不可欠と考えられているのである。

 また、経済的には、@供与した経済協力金で日本企業の機械、技術、原材料などを購入させるなど日本に還流させて、政府が財界に間接的にカネをばらまくために、Aロシア、中国、さらにはヨーロッパにもつながる南北縦断鉄道やシベリアからの天然ガス・パイプラインを利用するために、B日韓FTAの締結をテコとして東アジアに独自の経済圏を形成するために、日朝国交正常化しておく必要があると考えられている。

 さらに、国益を守るとの立場から、小泉政権は来年が日韓条約四十周年、朝鮮解放六十周年(分断六十年)であることを強く意識しているのではないか。韓国では四月の総選挙以降、国家保安法の改廃などによる南北の自主的平和統一推進機運がさらに高まっている。同時に、日本軍国主義による植民地支配について改めて追及するなど日韓条約の見直し機運も高まっている。節目の年である二〇〇五年に日朝国交正常化交渉が開かれれば、韓国が朝鮮を後押しして、言い換えれば七千万朝鮮民族が一体となって日本による植民地支配の罪科を追及することになる。日本政府・財界はそうなる前に日朝国交を経済協力で済ますという道筋だけは早期につけなければならないと考えているかにみえる。

 だからこそ私たちは、早期の国交正常化を求めるなかで、その形式・内容にも具体的に踏み込んでいかなければならない。謝罪と償いを基本とした日朝条約を締結すべきであると訴えていくことが必要である。それが、私たちが南北民衆に連帯する道であり、東アジアの平和構築に貢献する道であり、いまだ根強い差別排外意識を払拭する道でもある。


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