【新春特別インタビュー】核問題の始点は休戦協定不履行/危機打開まず米国が行動すべき

            戦争の経験くり返してはならぬ/外勢依存ではなく民族自主的に

   李泳禧・漢陽大学名誉教授に聞く

 本紙は歴代独裁政権下で信念を曲げず、果敢に筆ぽうをふるった李泳禧・漢陽大学名誉教授に単独インタビューした。李教授は二〇〇六年九月、『李泳禧著作集』の発刊を契機に「絶筆宣言」し、執筆生活五十年を締めくくった。しかし本紙は、米日両政府の対北敵視政策の強化と、これに対応する北朝鮮の核実験などによって、朝鮮半島情勢が危機的な状況になるなか、ちょうど日本を訪問する李教授に、朝鮮半島の核問題の本質と、解決法に関してインタビューすることを企画した。韓国の知性と良心を代表する知識人である李教授に、ぜひともこの問題に関する意見を聞き、読者に伝えたいと考えたからだった。李教授は、知識人として、社会の一員、一人の人間として、自分のなすべきことは果たしたとし、脳出血の後遺症で記憶力もなくなり、鋭利な思考もできなくなったと謙そんしながらも、核問題の本質など広範な問題に関して、切れ味鋭く語ってくれた。インタビューは昨年十一月四日、孫亨根副議長が行った。(整理は本紙編集局。文責は編集局にある)

郭東儀常任顧問らと記念撮影する李泳禧教授(左から四人目)

■「絶筆宣言」にいたる心情

 ――先生は最近、絶筆宣言されましたが、そうされた事情と心情をお聞かせください。

 「絶筆宣言したなどと大げさに言う必要はありません。朝鮮戦争から七年間、将校として服務し、それから新聞記者になったのは一九五七年です。今日までちょうど五十年、かなり膨大な文章を発表したし、いろんな発言をしてきました。国際関係と世界的な事件、韓国の政治問題、朝鮮半島の南北問題、北東アジア問題、韓日問題、韓米関係。このような同時代的問題に関するものだけでも、相当な量を書いてきました。他の人びとが書けないことを発表し、他の人びとがわからないことを明らかにしてきました」

 「また、歴代の政権と権力集団が五十年にわたって衆愚政治をほしいままにし、民衆を愚民化して統治するためにウソをついてきましたが、わたしはその虚偽を暴き、ありとあらゆる偽りを糾す作業をしました。何度も刑務所へ行かなければならなかったし、いろんな苦労も多かった、とても困難な五十年でした。わたしの文章と願いと行動によって、韓国社会に相当な影響を及ぼし、少なくない後学・後輩らが育ち、立派な次代のリーダーたちがいま韓国社会の中枢的な役割を各分野で果たしています」

「ところが六年前に脳出血したんです。そのせいで記憶力が弱くなり、新しい思考、鋭利な考えも容易に出てこなくなりました。また、研究に必要な多くの本や論文、資料なども読みにくくなったのです。読んでも頭に残らないですしね。このように、わたしの精神的・肉体的な条件のため、新しい理論の創出、事態の観察と分析、そして、それの批評など、相当に高度で難しい作業ができなくなったのです。それでも多くの後学・後輩らが大きな仕事をしているので、ここでわたしが仕事をやめても、ひとりの人間として、また知識人として、なすべきことはなしたのではないか。そんな風に考えるのです」

「人はだれも、自分の能力や主導力を過大に評価すると、後に災いがやってきます。中国にこんな言葉があります。『満足するを知れば、事故はなし』。つまり『知足者無欲』、身のほどを知れば欲もなし、と。また、『恥をよく知れば、後に恥辱を避けられる』。つまり『知止者無○』、止まるを知れば事故もなし、と。そう、まさにわたしにもその時が来ました。もう能力も減退したし、また、よくやってもきた。十分じゃないかと悟って、執筆をやめるべき時に至ったと考えたのです。わたしが養成した後学・後輩らが、さらに大きな仕事ができるように退くのが、わたしにとっても、人間的で、恥や不名誉もなくすがすがしく、また誇らしく終わることになる。だからそうするのです。もうこれからは文章も発言もせずに、個人的な生活へと退く、そういうことです」

■北朝鮮の「核保有」をどう見るか

――しかし、先生のご発言は、深海のサンゴのように貴重で美しいものです。今日はこうしてお会いできた機会に、いろんなお話をお聞かせください。さて現在、分断されたわが民族は、外勢の圧力と複雑な国際情勢のなかで危機的状況におかれています。ブッシュ政権の対北敵視政策が強化されるなかで、北朝鮮が核実験を行い、それに対して国連安保理が対北制裁決議をすることで情勢が緊張しています。北朝鮮の核実験をどのように評価するか。また、朝米の緊張状態を平和的に解決する方途はないでしょうか。

 「わが民族は実に困難な峠にさしかかっています。米国と北側のわが民族の半身が軍事対決状態を持続する状態、北側のわが民族が核兵器を保有することで米国との緊張関係がまさに爆発寸前の状態に立ち至っていることは、みんなが心配している問題です。その状況を表面的な状態で述べるとするなら、非常に危険な地点に到達していると思います。朝米の双方ともに誤って判断し行動する場合、あるいはどちらか一方が誤っても、この朝鮮半島で戦争が引き起こされる状況、可能性があるということです。ダイナマイトの導火線に火がついて燃えあがり、それが爆発する直前の状態に来ていると言えます」

「その状態を冷徹に判断するため、因果関係から見る観点があります。米国は、一九五〇年から五三年まで朝鮮半島で継続した戦争を終わらせるための休戦協定に規定したいくつの重要な義務を履行せず、今日まで協定違反、協定義務の不履行をしています。一番重要なものが休戦協定で規定した、協定署名の後九十日内に政治国家を代表する代表によって、国家の名前で政治的な解決を仕上げる平和協定の締結を拒否して来たことです。二番目には、休戦協定が締結されたら外国軍隊は撤退することになっていたのに履行していないことです。朝鮮戦争に参加した中国軍は一九五八年十月一日に完全撤退しました。ところが米国はその後五十年間、当時の兵器と戦略をそのままにして朝鮮半島の南半部に居座り、休戦状態を継続させています。そして三番目に、休戦協定では三年間の戦争で使われた兵器と質的・数的に同水準の兵器だけを交換あるいは、長期補充できるとなっています。それは後に軍事用語となった『在来式兵器』というものですが、核兵器ではないという意味をそのように表現したのです。ところが米国は一九五六年、すなわち休戦協定が締結された三年後、一方的に、そして秘密裏に核兵器を韓国に持ちこみました。重大な協定違反です。大きく見ても、この四点において米国は、休戦協定を完全に白紙化し、破り捨ててしまったことにほかなりません」

 「そして、その武力で韓国の軍隊を傭兵(ようへい)のように雇用部隊のように使って、北朝鮮への政治・軍事的圧迫を継続して来ました。そのような状況下で、北朝鮮が米国に休戦協定の忠実な履行をいくら要求しても、米国は五十年間、まったく相手にしないのです。ですから早い話、北朝鮮は自衛策を軍事的に講ずるしかないです。もしも反対に、ソ連と北朝鮮が協力して韓国と戦争し、休戦協定を締結した後に、ソ連が休戦協定の重要な決定事項に違反して白紙化したらどうでしょう。ソ連が韓国に対して使う核兵器を、北朝鮮に完全に配備して脅かしたならば、南側にある国家は自存のため、生き残るために何らかの対抗手段を持たなければならないでしょう。結局、核兵器しかないんですよ。『在来式兵器』としては、持たなければならない兵器の種類があまりにも多く、また最新式に更新させる費用がおびただしくかかります。たとえば韓国が、ソ連に対抗できるほどに『在来式兵器』を最新鋭のものへと発展させることができないように、北側にあるわが同族の国家も、米国に対抗できるほどの『在来式武器』を持つことはできないという関係において、同様だという意味です。 小国で金もなく、経済力も弱いのに、それほどにも複雑で金のかかる『在来式兵器』を全部取りそろえて、唯一の超大国である米国の脅威に対抗するのは不可能です。そこで、一発あれば対抗できるものは何かを考えた。それが核兵器なのです」

「そのような論理が成立し、この戦争論理の展開として、米国が一方の原因となり、北朝鮮がもう一方の当事者として対応した。北朝鮮の対応に対して、米国がさらに一段階高めた対応をする。これに対して、北朝鮮もさらに……。こうした因果関係の結果として、今日の極度に緊張した状況にまで立ち至ったのです。結論的に言えば、その危機の原因は米国にあり、米国からまず解くべき因果関係の、長い長い、五十年間の複雑な過程の結果なのです。米国がこの結び目を解こうとする努力をまったくしなかったのですから、現在の危機状況を解決しようとするなら、まず米国が行動するしかないのです」

 「一方、北朝鮮も世界的なすう勢と時代的潮流に漸進的に合流しようとするなら、『自己変化』しなければならず、『開放社会』を志向しなければなりません。米国の軍事的『抹殺』政策のもとでは不可能ですが、執権勢力が自発的に国民(人民)の市民的自由と権利の幅を広げなければなりません。そのような努力と変化は、世界の対北朝鮮観を有利に転換させることになり、米国の圧力をけん制する力になるでしょう」

■米国の先制攻撃を抑制する

 ――核問題の原因は米国にあるため、米国側から解決しなければならないということですね。そのような状況をつくるために、南側と海外でどのような運動を展開しなければならないでしょうか。

「南側は、一方では米国が北朝鮮に対する戦争直前状態としての武力行使ができないように、それを防止するために粘り強くけん制しなければなりません。米国は、北朝鮮に対する戦争を行う時、米国人の犠牲を最小化するために空軍力で爆撃し、おびただしい犠牲者が生まれざるをえない地上戦は、韓国軍が担当するという戦略を実行しようとしています。こんなことは、朝鮮戦争を経験した民族が絶対にくり返すことができない行為だと、盧武鉉大統領や大多数の国民が主張しています。ですから、米国が行動に乗り出せないようけん制する役割を果たしています」

「ところが韓国を実際に掌握している守旧反共反統一、すなわち『統一』とは北側を軍事的に占領することだとする勢力が、まさに米国を崇拝する勢力として、南側内部で大きな力を握っています。安心できる状態ではないです。いまだに事大主義、外勢主義、外勢依存主義が軍隊や警察、守旧勢力や金持ち、持てる者らのなかに根強くはびこっています。また重要なことは、韓国のキリスト教、カトリック信者にこうした傾向がとても強いことです。キリスト教信者数は、彼らの自称ですが一千万人です。仏教が千百万人、カトリックが百万人ですが、キリスト教の九九%が米国崇拝、米国をキリストのように信奉する勢力です。こう言うと嫌がるでしょうが、事実なのです。このように多様な勢力が分布しているために、韓国でまともに考え、同族間の戦争を願わない勢力が政権を掌握していても、実際にはそれに反対する勢力が実権の多くを握っています。特にマスコミ、南北関係を悪化させるために、ありとあらゆるせん動をするマスコミがまさにそうです。これが南側の状況であるため、わたしがあれこれ言えないです。良識ある人びとのだれもが、どうすべきなのかをわかっていながら、何ができるかがわからない状態です」

 「北朝鮮は、米国との相対的な立場で、米国が不当な圧力、すなわち政権を窒息させて社会を分化させ、国家を滅亡させる行為を行わないとの内政不干渉、 主権を尊重する態度を見せながら核兵器を廃棄せよと要求するとき、相互に平等な立場で平和を維持することができます。しかし、米国は数百倍の核・通常兵器を突きつけながら、相手が一つ持った核兵器を放棄しろと要求するのは、あまりに不平等です」

「米国はイスラエルの核兵器に対しては二十年以上も何も言わず、むしろイスラエルの核武装を援助したのです。インドとパキスタンに対しては、形式的には制裁をするふりをしながら、印パ両国をしてロシアと中国に対抗させるため、また、自分の言いなりになる子分国家をつくるために核武装を許容し、二年前には支援を約束しました。このような米国の帝国主義政策を目の当たりにすると、米国の対北敵視政策がブッシュ現政権のもとで解消されるとは考えられません。ブッシュ政権は完全に侵略主義で、覇権主義的に世界をわが物にしようとしており、最後までこの政策を放棄することがありえない体制なのです」

「数日後に米国の中間選挙が行われますが、民主党が多数派になっても大きな変化を期待できないように思えます。米国という国家の本質、また米国資本主義の体質は、戦争なくしては維持できないというところにあります。 したがって、米国の民主党と共和党を比較して、民主党がより穏健で、共和党がより強硬だといっても、本質と体質に変わりはありません。ただ、民主党のクリントン政権は、北朝鮮と相互承認にまで進もうとする意志を一応は見せました。だから選挙で政権が変わることや、議会の多数派をどちらが占めるかに、わずかな希望を見たりするのです。恐らく北側の当事者らも、そんな観点から中間選挙の結果を見守っているでしょう。それでわが半島の状況は少しは変わるかもしれません」

 「重要なことは中国の態度ですが、中国は現在、米国と半分は密月状態、恋愛しているし、もう半分では背を向けている微妙な状態です。なぜなら、米国との利害関係が経済的にはとても大きく、その反面、台湾問題をめぐっては対立しており、朝鮮半島問題をめぐっては、一方的にどちらかへの加担を決断できない難しい立場ですね。中国としては、北朝鮮地域に米国と韓国の守旧勢力がそのまま入り込んできて支配することは受け入れられません。だからといって、全面的に拒否しようものなら、米国が持続的に北東アジアで危険な軍事的暴発直前の状態を継続させる火遊びをすることになります。中国としては国家経済の建設が脅かされ、国家安保問題に直面するディレンマに陥っています。それがこの前の国連安全保障理事会の北朝鮮制裁問題で、中国が半分まで同意したことに表れたんです。このような状態がこれからも続くでしょう」

■真の韓日友好のために

 ――韓国は外勢の動きに期待せず、一層警戒心を持って対処しなければなりませんね。

 「その通りです。それは昨日、今日に始まったことではなく十年、二十年前からそうだったのです。それでも民主化勢力が、また独自の国民的自覚をした、反独裁闘争の経験を持った勢力が政権を掌握することで、以前よりはかなりよくなりました。それに期待して今後ともその勢力とその意識が、哲学が、国民的自尊心が持続的に発展・強化されなければなりません。ところが、そうした民主化勢力の内部調整がどのように展開されるか。来年十二月の大統領選挙まであと一年しかないのですが、国民の政治的決断がどう下されるか、予測しにくい状況にあります」

 ――この八月に北海道で行われた「日帝下の強制徴用労働者遺骨発掘事業」に参加されましたね。

「韓日の民間団体が行う意義ある行事に関与しようと思って参加しました。実に六十年以上も埋もれたままの遺骨が多数存在するという事実が、根深い問題の存在を雄弁に物語っています。日本政府に誠意がなく、正しく問題の処理をしないということもあります。しかし、遺骨の大部分の出身地が南側なのに、韓国政府は主権が及ぶ範囲で行政的に責任を負わなければならないこの問題で、日本政府よりも関心がなかったのです。歴代の独裁政権は、日帝支配の犠牲者の、すでに亡くなった方々の魂ではあるけれど、遺骨問題に何の関心もなかったのです。 韓国政府、日本政府ともに、どれほど無責任で非人間的な政権なのかを、遺骨が捨てられていた現場を見ながら、ひしひしと実感しました。それでもいま、両国の国民の一部が歴史を正しく見ながら、日本側では市民運動が起こり、少しずつではありながらも過去を反省しているんです。韓国側では継続して政府に代わって行事も行い、意識を変革して日帝強制動員問題に取り組んできたので、日本でのこうした発展を目撃したことは、本当にうれしいことでした」

「韓日から三百人ほどの市民が参加した行事でも話しましたが、加害者だった日本の子孫たちが、全体的には政治的に極右化し、軍事大国化を目指す勢力が大勢を占めているような日本で、良識ある市民らがとても熱誠的に活動してくれることに、とても感動しました」

「もしもその当時、朝鮮民族が日本民族を強制連行して、朝鮮の炭鉱や飛行場で侵略主義に動員し、強制労働させ、殴りつけ、拷問し、食べ物も与えず、死ねばどこかに捨ててしまったと仮定するとき、彼らの子孫であるいまのわたしたちが、日本人の子孫が朝鮮にきて遺骨を探すために努力する場合、はたして北海道で日本市民がわたしたちに見せてくれたほどの温かい心と反省と、全面的な協力をするだろうか、と考えました。わたしは、自身のことでもあるので、わが民族の長短所がわかります。もし歴史が反対になった場合、恐らく韓国の人々は『探したいなら、探せ』という態度をとっただろうと思います。わたしはそこで、日本の人々が反省しているけれど、本当の反省はわが朝鮮民族がしなければならないのではないか、という恥ずかしさと罪責感を感じました」

――わたしたちは日本を鏡に、韓国とわが民族を見なければならないし、日本人は韓国とわが民族を鏡に、日本を見なければならないと思います。そんな関係のなかで真の韓日友好と歴史清算が実現すると思います。

「そうですね。最近、文化的な交流がとても活発に見えます。ここにきて見たのですが、市が行う無料の教養講座に韓国語が入っているんですよ。韓国でも日本語や日本文化への関心が高く、このように、互いが過度に政治や過去の歴史問題を結合させず、いまの世代と未来の世代の相互理解が深まれば、韓日関係の真の友好にとても役に立つと思います。 それは韓日両国間だけではなく北東アジアの平和のためにも役に立つでしょう」

 ――長い時間ありがとうございました。


 

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