生きることのはじまり

金満里(キム・マンリ)著

 

 『私の生い立ちには、徹頭徹尾、普通ということが何一つない。かなり変わった存在である。』

 3才の時にポリオ(小児マヒ)を発病し、重度の障害者となった著者の半生記である本書の書き出しは、こんな具合である。

 著者は、7才で家族と別れ、「障害」者施設での生活をはじめる。10年間の施設での生活の中で、自分をとりまく様々な矛盾を感じるとともに、施設の中では、障害が軽度のものが、より重度のものを差別するという、自分の中にもある「エゴ」に気づかされる。そして、自分の人生として自覚的に大きな選択をする。

『・・・「健常者」にいかに近づくか、という努力のしかたに私自身で終止符を打ったのである。』

 著者は、その後「障害」者運動への参加、そして、身体「障害」者だけの劇団「態変」を結成することになるのだが、その中で朝鮮古典芸能の至宝とまで呼ばれた母とのやりとり、とりわけ「障害」者運動に参加する過程での葛藤・衝突の場面には、何かしら親近感を覚えた。著者は、運動に没頭するため母の反対をふりきって家を出ていく自分を、最後には朝鮮独立運動と並びたたえてくれた母に感謝したりしている。

 そして出産。著者は子どもを産むことでこれまでの自分の人生には存在しなかった「宇宙人」の出現に戸惑いながらも、そのことを受け入れて生きている。

 本書は「障害」者であり、在日韓国人であり、そして女性である著者の半生の中で考えたこと、感じたことが実に淡々と素直な筆致で書かれている。

 著者は最後にこう記している。

『今の自分がやっていることは、大きな歴史を捉えることなしには、説明がつかないのです。それは、母が日本に渡ってきた頃の、まだ南と北に分かれていなかった、一つの朝鮮、そこから始まっている道ともいえる』

 本書は、一人の人間が生きることの意味を考え、自分自身の中にある「エゴ」という問題を考えさせるものであり、何よりも一人の人間が自分を表現するということに勇気をあたえてくれるものである。

(筑摩書房 1100円)

 

 

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