◆新企画・コラム◆

 「我々はこの共同声明を、ただの紙に書いた文字には終わらせず、この声明を積極的に支持して、真の自主的平和統一を実行させて、5千万わが民族の統一された唯一の祖国を建設せねばならないのです。・・・以下略」

 上の文章は、1988年に32歳で他界した、当時韓民統大阪本部機関紙部長・金泰憲(キム・テホン)氏が、高校2年生の時に執筆した文章である。忍び寄る病魔と闘いながら、一貫して民族運動に身を投じた彼の病床での最後の言葉は「祖国の民主化と統一のためにがんばってください。」であった。

 彼は、饒舌でもなければ、目利きのきくほうでもない。どちらかと言えば、その反対であろう。夜遅くまで工場で仕事をこなし、風呂上がりに、近くの居酒屋で生ビールをうまそうに飲む。韓国童謡とカゴパが好きで、皆に茶化されるともっと大きな声で歌い出す。声量はあるが、音程に若干の問題がある。

 高校生の時に民族心に目覚め、世の不条理に表面から向き合った彼にとって、7・4南北共同声明の衝撃がいかほどであったのか、察して余りある。

 私たちの周りには、様々な力が相互に働いている。感動、憎悪、喜び、悲しみ、そして、それらを頑なに拒否しようとする力、心の振幅を恐れるが故に人が身につけてしまった無感動、無関心。

 南と北が引き合おうとする巨大な力は、分断半世紀を越え、理屈をこね回してきた人々に見えるはずもない。まして、そのことで生きながらえてきた為政者にとってはなおさらのことであろう。この力の源泉は、分断が故に無視され、蔑まれ続けてきた人々の心の中に、肉親との再会を果たせずに世を去った魂の中に、そして金泰憲氏の魂の中にあるのである。

 7・4南北共同声明発表当時の歓声から28年。今年6月に歴史的な南北首脳会談が開かれようとしている。

 

 戻る