◇在日同胞問題欄

連載  同胞社会の明日と介護保険

「介護保険」とは何か

金昌範(キム・チャンボム)

 介護保険法の施行に伴なう介護保険制度がいよいよ4月よりスタートします。

 その導入を機に、介護保険の中身に少しでも接近しながら、同胞高齢者、ひいては在日同胞社会全体の未来について考える契機にできればと、本連載を企画しました。みなさんの活発なご意見を期待します。

(「自主」編集部)

●はじめに

●介護保険−その財源となる保険料

●介護を受ける権利〜手続からサービスまで

●同胞社会のこれから

●私たちにとって

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●はじめに

 バブル崩壊以降の税収の減少と急激な少子・高齢化社会の到来によって、日本政府は特に90年代以降、その社会保障・福祉政策の立て直しと一層の充実が求められてきた。しかし、2千年を迎えた今日、私たちが目の当たりにしているのは、健康保険制度や老人医療制度(ともに現在、法改定を検討中)をはじめとした現行社会保障・福祉制度の財政・施築両面での行き詰まりである。そうした中、真っ先に高齢者介護サービスの分野において、その姿を変えようとしているのが、4月からスタートする「介護保険制度」である。

 厚生省は、介護保険制度導入の理由について、おおむね以下のように述べている。

 @少子・高齢化の人口構造により家族介護が限界に達しつつある。A新たな財源が求められている。B現行の医療・福祉制度では、当事者が自由に介護サービスを選択できず、サービス時に不公平が生じる。(厚生省・高齢者介護対策本部のパンフレットより)

 では、介護保険導入によって当事者やその家族に対する負担は、軽減するのか、あるいはより重くなるのか。そして、当事者に公平で適切なサービスが供給されるのか。何よりも在日同胞にとって介護保険制度はどのようなかかわりを持つのか。

 本拙文にて、この制度のあらましを述べながら、上記の点について検討を加えていきたい。

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●介護保険−その財源となる保険料

 介護保険とは、文字通り社会保険の一つである。すなわち入所(老人ホーム・一部の病院など)サービス、居託サービス(在宅者への訪問サービス)を含めた高齢者介護サービスについて、従来その多くが公費(税金)によってまかなわれていたのに対し、新たに原則50%(*@)を被保険者(定住外国人を含む)保険料でまかなう制度である。(図1参照

 被保険者については40歳以上が対象となり、そのうち65歳以上を「第1号被保険者」、40歳〜64歳を「第2号被保険者」としている。但し、第2号被保険者は「加齢に伴なって生ずる心身の変化に起因する疾病」で、要介護状態になった場合にのみ保険給付対象となるため、ほとんどの場合その保険料は「老後のための掛け金」(掛け捨ても含む)の意味合いが強い。

 介護保険制度の最も大きな特徴の一つは、当事者である第1号被保険者からも保険料を徴収する、いわゆる「受益者負担」を前面に打ち出した点である。その保険料は、厚生省の推算では、2千年段階で平均2500円。保険料率は、国民年金法に基づく老齢福祉年金受給者など、その所得状況によって5段階に大別されている。(表1参照)

 これを当事者である在日同胞一世に当てはめるとどうなるだろう?

 同胞一世の場合、1982年に国民年金法から国籍条項が撤廃されて以降も、何らの経過措置がとられなかったため、未だその約9割が無年金状態にある(*A)一部自治体では、それらに対し独自の給付金が支給されているが、その金額もわずかである。(大阪市の在日外国人高齢者給付金は、月額1万円)

 当然、日本人と同じく、いざ介護サ―ビスを受ける際には、そのサービス料の1割を負担しなければならない(9割は保険から)。

 日本政府・厚生省はこうした2重3重の徴収状況を果たして想定しただろうか。彼らには在日同胞一世の存在など一切眼中にないといわざるを得ない。

 加えて、保険料のベースは決して未来一貫して同一に推移する訳ではない。

 介護保険法129条第3項で、保険料徴収額は「〜国庫負担等の額等に照らし、おおむね3年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない」としている。つまり、財政事情次第で、3年後以降の保険料のアップが充分予想されるのである。

 日本政府は、法施行に伴なう措置として、第1号被保険者の保険料を半年間凍結することを決定した。先の総選挙をにらみ、日本人高齢者の票田を確保するための手段であることは明らかである。

 同胞一世が、こうした姑息な手段のツケまで何故支払わねばならないのか。「安心な老後」は、座視していても決して訪れない。

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●介護を受ける権利〜手続からサービスまで

 被保険者は、保険に加入したからといって、いつでもすぐに介護サービスを受けられるわけではない。保険者(市町村)から「要介護認定」を受けて、はじめてサービスを受けられるようになる。その手続きのあらましは以下のようになる。

 被保険者又はその家族が、市町村に申請→調査員が被保険者を訪問し、日常動作や心身状態に関する調査票を作成→コンピューター処理による判定(医師の意見書を添える)→市町村の介護認定審査会で要介護認定を受ける→介護支援専門員(ケアマネージャー)を派遣して介護プランを作成。−介護プランは、認定された「要支援」(家事などに時々支障をきたす程度)から、「要介護5」(寝返りをうてない)まで6段階の受給額に沿って、訪問通所サービスやショートステイ(介護の必要上、短期日施設に入る)などを組み合わせる。(表2参照)

 さて、ここでは寝たきり独居者や重度の夫婦が果たして申請に出向けるのかという問題がまず浮かぶ。また、こうした「現場からの離れた」プロセスが適正な認定を行なえるのかという疑問が出る(既に痴呆などの場合、必要度より軽い判定が出ている)。さらに受給限度が適正なサービスを受けるに足りているのかという問題も出てこよう。

 例として、厚生省の諮問機関である老健審議会が96年にまとめたサービスモデルでは、要介護5の夫と要支援の配偶者夫婦が受けられるホームヘルプサービスは、週14回で計11時間20分。「家族介護を期待しないことを前提に」独自に介護サービスを実施してきた枚方市(最高、週24時間30分)の半分以下である。

 介護サービスの不足分はどこで補うか。受給限度額を越えるサービスを当事者が自己負担でまかなうか、または民間サービス業者が自腹あるいは介護ヘルパーの労働条件を切り詰めることで、その要望に応えようとするか、さらには自治体独自に費用を拠出して介護サービス充実に努めるかしか現状では選択肢がない。

 介護保険導入を目前に、問題は山積みである。厚生省の試算によっても、2千年の在宅サービス整備率は40%。一方でこの「4兆円産業」に対し、大手商社やコンビニ・チェーンに至るまで、昨今その参入業者が目白押しである。

 こうした現状を前に、果たして同胞はどのような反応を示すのであろうか。

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●同胞社会のこれから

 同胞一世の反応を筆者なりに想像すると以下のようになる。

 「お金払ってまで、ややこしい手続きするのはしんどい」「いまさら社会に面倒見てもらおうとは思わん」。日本の植民地支配以降、不条理と無権利の中で生きてきた同胞一世の日本政府・行政に対する不信感は根強い。ましてや、年老うにつれ日本語を忘れ、生まれた時の言葉である母国語がその言語世界を占める一世にとって、手続きにしろ、介護を受けるにしろ、言葉の問題は大きなハードルとなる。

 紙面の関係上簡略になるが、同胞一世が少しでも安心して介護サービスを受けられるよう、以下のようにその必要事項をまとめる。

 @内容の説明から、手続きに至るまでの手助け。母国語を知る同胞の存在が不可欠。A要介護認定からサービスに至るまで、適正に行なわれているかの地域での非営利立場によるチェック。B不足している介護ヘルパーの創出及び介護の充実のための地域間の連携と情報交換。

 同胞高齢者が、その人生の先を人間らしく生きるためには、大げさに言えば「民族の尊厳」と「共生の思想」の両方が社会に、そしてその構成員に求められるであろう。

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●私たちにとって

 施行後も、ますます問題が噴出し、二転三転しそうな介護保険制度。とりあえず上記のことが準備されつつ、初めて問題解決の出発点に立つことができるであろう。逆に放置しておくと、自民党・亀井政調会長の「親の面倒を家族が見るのが当たり前」発言の如く、制度の不備を一方的に家族介護に押しつけるような本末転倒の事態に陥るであろう。まずは、当事者と同じ目線に立とうと努力することから始めねばならない。

 高齢者介護を語る際(障害者にも言えるが)よく「人間の尊厳」という言葉を耳にする。その際の人間の尊厳とは不安感や羞恥心にさいなまれる現実からの解放も含まれると筆者は考える。段差や高低を移動する際「移動入浴車」を利用する際、当事者は何を思うのか。そうした心情や生理を理解できた時、初めて当事者のことも介護者(家庭での多くは「嫁」)のことも理解できると考える。本当の出発は、そこからである。

*@:一当事者の所得水準によって、自治体ごとの総額も変わるため、国が「調整交付金」を5%分準備するので幾分比率が変わる。
*A:行政による調査資料はない。韓国民団・朝鮮総連が独自に調査しているが、数字のくい違いがあるため、「約9割」とした。(民族分断の反映がここでもある)
図1:介護保険の費用
保険料50% 公費(税金)50%
  第1号被保険者  
  33%
  第2号被保険者  
  17%
  国  
25%
  都道府県  
12.5%
  市町村  
12.5%

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